創業融資
美容室の開業融資で日本政策金融公庫を使う前に|制度と借入額
美容室の開業融資で日本政策金融公庫を使うときは、美容業が「生活衛生貸付」の対象になることと、借入額を毎月の返済から確かめることが大切です。制度の違い、推せん書、審査で見られる数字、申込の流れを公庫の資料をもとに整理します。
美容室の開業で日本政策金融公庫の融資を使うこと自体は、特別なことではありません。設備資金と運転資金の両方を借りて開業することもできます。大切なのは、いくら借りられるかではなく、開業後に返せる見込みがあるかです。この記事では、美容室が関係する公庫の制度、返せる借入額の確かめ方、申込までの準備を順番に整理します。
この記事でわかること
- 美容室の開業融資で、日本政策金融公庫のどの制度が関係するか
- 借入額を「返せるかどうか」で確かめる方法
- 公庫の審査で説明を求められる数字と、申込から入金までの流れ
美容室の開業融資は、日本政策金融公庫の「生活衛生貸付」も関係します
公庫が美容室の開業でよく使われる理由
日本政策金融公庫(以下、公庫)は、これから事業を始める方にも融資をしている政府系の金融機関です。公庫のQ&Aでは、創業期の方は原則として無担保・無保証人で各種融資制度を利用できると案内されています。
まだ売上の実績がない開業前でも相談できる。これが、美容室の開業で公庫がよく検討される理由です。
美容業は「生活衛生関係営業」に含まれます
美容室を開業するときに知っておきたいのは、公庫には美容業などを対象にした生活衛生貸付という融資の枠があることです。
生活衛生関係営業とは、飲食店、理容業、美容業、クリーニング業など、暮らしに身近で衛生水準の確保が求められる業種です。公庫の「生活衛生融資のご案内」でも、対象業種に美容業が挙げられています。
一般的な創業融資の記事では、この点はあまり説明されていません。しかし、美容室の場合は申込の段取りに関わることがあります。
一般貸付と振興事業貸付の違い
生活衛生貸付には、大きく二つの種類があります。
- 一般貸付:生活衛生関係の事業を営む方全般が対象です
- 振興事業貸付:振興計画の認定を受けた生活衛生同業組合の組合員が対象です
生活衛生同業組合は、業種ごとに都道府県単位でつくられた同業者の団体です。組合員かどうかで、使える制度や必要な書類が変わります。
なお、公庫には生活衛生貸付とは別に、事業全般向けの「一般貸付」という制度もあります。名前は同じですが別の制度なので、調べるときは混同しないように注意してください。
設備資金が500万円を超えると、推せん書が必要になります
生活衛生貸付の一般貸付を利用する場合は、都道府県知事の推せん書が必要です。ただし、設備資金の申込金額が500万円以下の場合は不要とされています。
組合員でない方は、都道府県に1つずつ置かれている生活衛生営業指導センター、または都道府県に推せん書の交付を申請します。
美容室の内装や設備は、500万円を超えることも珍しくありません。申込の直前になって推せん書が必要だと気づくと、段取りがずれてしまいます。
生活衛生新企業育成資金と、新規開業・スタートアップ支援資金
開業する方に関係する制度は、主に次の二つです。
- 生活衛生新企業育成資金:生活衛生関係の事業を新たに始める方、または事業開始後おおむね7年以内の方が対象です。設備資金と運転資金について、一般貸付・振興事業貸付の融資限度額に上乗せする特例として案内されています
- 新規開業・スタートアップ支援資金:新たに事業を始める方、または事業開始後おおむね7年以内の方が対象です。新たに事業を始めるための設備資金と運転資金に使えます
どちらを使えるか、組み合わせられるかは、事業の内容や組合への加入状況などで変わります。この記事では断定しません。
相談のときに、公庫へ確認すること
制度の違いを細かく覚える必要はありません。相談の段階で、次の三つを公庫に確認してください。
- 自分の開業計画は、どの制度で申し込むことになるか
- 推せん書は必要か
- 推せん書が必要なら、どこへ、いつまでに申請するか
融資限度額や金利は、制度や条件によって異なり、見直されることもあります。申込の時点で公庫の公式ページを確認してください。
開業融資は、返済できる見込みがあれば問題ありません。無理して借りないでください
設備資金と運転資金を借りるのは、ふつうのことです
美容室の開業には、内装や美容器具などの設備資金と、開業後の家賃や人件費、材料費に充てる運転資金が必要です。自己資金だけでまかなえない分を借りるのは、ふつうのことです。
開業資金の全体像は、美容室の開業資金はいくら必要?で整理しています。
借入があること自体は問題ではありません。**返済できる見込みがあれば、借入は開業の味方になります。**手元にお金を残せるので、開業直後の売上が少ない時期も、広告や材料の仕入れを止めずに済みます。
怖いのは、返済のためにまた借りる「借金の雪だるま」です
私たちが一番避けたいと考えているのは、返せない借入を抱えることです。
売上が計画に届かないと、毎月の返済と支払いに回す現金が足りなくなります。足りない分を別の借入で埋めると、返済額はさらに増えます。すると、また現金が足りなくなります。
こうして借入が借入を呼ぶ状態が、借金の雪だるまです。一度この流れに入ると、売上を増やすための広告や採用にもお金を回せなくなります。
だから、借りられる額をすべて借りるのではなく、返せる額の範囲で借りることが大切です。
返せる見込みは、月の利益と返済額で確かめます
返せるかどうかは、次の順番で確かめます。
- 開業後の月の売上見込みから、材料費、人件費、家賃などの経費を引いて、月の利益を出す
- 個人事業主の場合は、そこから自分の生活費を引く
- 残った金額で、毎月の返済額を払えるかを見る
売上見込みは、少し控えめな数字でも試してください。控えめな売上でも返済できるなら、計画に余裕があると言えます。控えめにすると返済できなくなる場合は、借入額か、お店の規模を見直す合図です。
据置期間は「返さなくてよい期間」ではありません
融資には、元金の返済を一定期間待ってもらえる据置期間を設けられることがあります。据置期間中は利息だけを払う形になり、月々の負担は軽くなります。
ただし、据置期間は返済が免除される期間ではありません。返済が始まるまでの期間です。
据置期間が終わると、元金の返済が始まり、月々の支払いは増えます。返せるかどうかは、返済が始まった後の月で確かめてください。
内装と席数は、借入額の見通しが立ってから決めます
公庫の「創業の手引+(美容版)」には、開業前のチェック項目として次の内容が挙げられています。
- 内外装工事は、2社以上から見積書を取って価格の妥当性をつかむ
- 出店場所や内外装、美容椅子などのグレードは、調達できる金額を算段した上で決める
- 居抜き物件の場合は、譲り受ける造作・設備の価格の内訳と妥当性を確認する
物件と内装を先に決めて、足りない分を借りる順番にすると、借入額は膨らみます。開業後の運転資金も残りにくくなります。
返せる借入額の見通しを先に立て、その範囲で席数や内装を決める。この順番が、無理な借入を避ける近道です。
日本政策金融公庫の審査で見られる、売上見込みと自己資金の数字
売上見込みは「客単価×椅子数×回転数」で説明します
公庫の「創業の手引+(美容版)」(令和6年6月)では、美容室の売上予測の算式として「客単価×椅子数×回転数」が紹介されています。手引に載っている例は次のとおりです。
- 美容椅子2台
- 1日1台当たりの回転数4.5回転
- 客単価3,950円
- 月25日稼働
- 売上予測(1か月)=3,950円×2台×4.5回転×25日=88万円
これは手引の計算例で、実際の店舗の目安ではありません。立地、メニュー、価格帯、1人で営業するかスタッフを雇うかで、数字は大きく変わります。
回転数と稼働日には、根拠が必要です
売上見込みの中で説明を求められやすいのは、客単価と回転数の根拠です。
勤務先での指名客数や売上、予約の実績など、自分の経験から説明できる数字を集めてください。開業直後から計画どおりに予約が埋まるとは限らないため、立ち上がりの数か月は控えめな数字にしておくと説明しやすくなります。
創業計画書の書き方は、別の記事で詳しく整理する予定です。
自己資金は「額」と「たまった経緯」を説明できるようにします
公庫のQ&Aでは、自己資金について次のように案内されています。
- 自己資金は重要な要素のひとつ
- ただし、それ以上に創業計画全体がしっかりしているかが重要
- 創業資金総額に占める自己資金の割合は、平均で2割程度
平均の2割は、審査の基準ではありません。「2割あれば借りられる」という意味でもありません。
面談では、金額だけでなく、どのように貯めてきたかも説明できるようにしておきます。家族から受けるお金は、もらうのか借りるのかを分けて整理してください。
自己資金がほとんどなくても開業できるか
自己資金が少ないと、借入に頼る割合が大きくなります。そのぶん毎月の返済額が増え、前の章で説明した「返せる見込み」の確認が厳しくなります。
自己資金が少ないときは、借りられるかどうかより先に、お店の規模や開業の時期を見直せないかを考えてください。
必要な資金と、返せる借入額を一緒に整理したい方は、創業融資支援サービスの内容をご覧ください。
日本政策金融公庫への申込から入金までの流れ
相談・申込
公庫への申込は、インターネット申込が案内されています。郵送での申込もできます。支店窓口での相談は事前予約制で、オンラインでも相談できます。
必要書類
公庫の「生活衛生融資のご案内」(令和8年度版)では、はじめて利用する方の書類として、主に次のものが挙げられています。
- 創業計画書
- 本人確認書類(運転免許証、マイナンバーカードなど)
- 許認可証
- 法人の場合は、履歴事項全部証明書または登記簿謄本
- 一般貸付を利用する場合は、都道府県知事の推せん書(設備資金の申込金額が500万円以下の場合は不要)
制度によって、必要な書類が異なる場合があります。申込前に公庫へ確認してください。
面談
面談では、創業計画書に書いた内容を、自分の言葉で説明することになります。売上見込みの根拠、必要な資金の内訳、自己資金の経緯を、数字と一緒に話せるように準備しておきます。
入金までの期間
公庫のQ&Aでは、融資までの期間は平均で3週間程度と案内されています。条件によって変わることもあります。
物件の契約金や内装工事の支払いがいつ必要になるかを確認し、そこから逆算して申込の時期を決めてください。推せん書が必要な場合は、その手続きも段取りに入れておきます。
美容室を開くには、融資とは別に、保健所での美容所の開設届などの手続きも必要です。融資と並行して進めるものとして、スケジュールに組み込んでおきましょう。
融資の計画書を、開業後の月次経理のものさしにします
開業前には実績がありません。借入額が適切だったかどうかは、開業後にしか分かりません。
そこで役に立つのが、融資のために作った創業計画書です。計画書の売上、材料費、人件費、家賃は、開業後に毎月の実績と見比べるものさしになります。
計画と実績の差に早く気づければ、返済が苦しくなる前に手を打てます。予約の入り方を見直す、広告の出し方を変える、経費を抑える。打てる手があるうちに気づくことが、借金の雪だるまを防ぐいちばんの方法です。
ただし、見比べるには、毎月の数字が同じ基準で整理されている必要があります。POSや予約サイト、カードの入金、銀行の入出金がばらばらのままだと、実績を計画と並べられません。
融資の計画づくりと、開業後の月次経理を一続きで考えておく。これが、借入を上手に使いこなすための準備です。
美容室の開業融資を相談する前に、二つの数字を書き出してください
最初から立派な計画書を作る必要はありません。まずは、次の二つを一枚の紙に書き出してください。
- 必要資金 − 手元資金 = 借入希望額
- 毎月の返済額 ÷ 月の利益見込み(返済が始まった後の月で計算する)
一つ目で、いくら借りる必要があるかが分かります。二つ目で、その借入を開業後に返せそうかが分かります。
どちらかが出せない場合は、見積りや売上見込みなど、まだ決まっていない数字があるということです。そこが、次に確認すべきことです。
借入は、上手に使えば開業の味方になります。無理して借りず、返せる範囲で使ってください。
参考資料
- 日本政策金融公庫「生活衛生融資のご案内」(令和8年度版)
- 日本政策金融公庫「新規開業・スタートアップ支援資金」
- 日本政策金融公庫「START Q&A」
- 日本政策金融公庫「理容業・美容業の創業ポイント」
- 日本政策金融公庫「新たに美容業を始めるみなさまへ 創業の手引+」(令和6年6月)
※この記事は、公庫の公開資料をもとに一般的な考え方を整理したものです。融資の可否、融資額、金利を保証するものではありません。制度や融資条件は変更されることがあるため、申込の時点で公庫の公式情報をご確認ください。